2018年11月

2018年11月01日

トレジャーハンター クミコ

今頃この映画…って2014年に観た方は思うかもしれないけど…
数日前、ネットTVで鑑賞
感動しました!
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  唯一の家族、ペットのウサギも、ミネソタに連れて行けないから捨てる決意…
  全編通してこの表情のない顔の凛子さん


 日本女性を主演にしたアメリカ映画『トレジャーハンター クミコ』(2014年 監督デビッド・ゼルナー)を観た。この話、2001年、ミネソタ州で起きた実話をベースに作られたらしいが、知らなかった。日本ではあまり報道されなかったが、米国では大々的に報道されて一種の都市伝説になっているらしい。 
 
 都会に住む孤独なOLクミコ。会社では自分を女中のようにこき使う上司、美容や男の話しばかりの同僚、電話をかけてくるたびに「結婚は?」「彼はできたの?」「実家にもどれ」とせっつく母親。イラつく毎日…唯一の楽しみは映画『ファーゴ』のビデオ。その中に男がミネソタ州の人のいない雪の原野のフェンスの下に大金を埋めるシーンがある。何度もそのシーンを見ているうち、その金を探しに行くことが唯一の生きる証と考えるようになった。

会社をやめ、ペットのウサギを処分し(これがドキっとする)、上司から買い物を頼まれたときに預かったクレジットカードの金を資金にミネソタ州へ向かう。途中でクレジットカードをとめられてからは、無銭飲食、タクシー乗り逃げ、宿代踏み倒しなど親切な米国人を足蹴にしながら、雪深い目的地近くまでくるが…。

 彼女はなぜ映画なのに大金が埋まっていると信じたか?それは画面上に「この話は実話です」とテロップがでたから。本当は実話ではなく、映画の演出のひとつだった。紛らわしいなあ。演出ってどういう意図があったの、コーエン兄弟さん。

 その皮肉なのか、じつはこの映画も実話に見せて実話じゃないのです。2001年、小西たか子という日本女性がデトロイトレイクスの近くで凍死したのは本当だが、宝探しで力尽きたのでなく、恋人のアメリカ人とデイトした場所で、別れてからも彼を忘れられず、この地で自殺したというのが真相らしい。何でそれがトレジャーハンターになっちゃったのか。彼女はあまり英語が出来ず、彼女と接した人たちの証言の中で誤解が生まれたらしい。その真相は別にドキュメンタリー映画になったというから、いかに欧米人の関心が高い出来事だったかわかる。そのドキュメンタリーも観たいなあ。

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            州警察官役で監督自ら出演


 とにかく菊地凜子さんの演技に脱帽。他人とのコミュニケーションがとれず、ほぼ欝状態になっていくOLの姿。唯一、自分の存在を認めてもらいたいと願う母親は、そういう娘の心をいたわり、寄り添う気持ちがない。クミコはきっと子供の頃からいい子だったので、母親が逆に娘に甘えてしまって、なんでもずけずけ要求を押し付けてきたのだろう。あらゆることに耐えてきた気持ちが持ちこたえられなくなって爆発したのが、何もかも捨ててミネソタに向かう行為だった。

 OLの追い詰められていく心境を淡々と描いたシナリオはとても良かったと思います。変に日本女性とはというバイアスがかかってなくて、ストレートにクミコの心情を追っている。脂ぎったスケベ男は出てこない。パワハラボスですらユーモラスで愛嬌があり笑える。また心情を映像にするってすごく才能がいると思うが、実に一つ一つ切り取られた映像、東京雑感もミネソタの雪原も適切でかつ美しかった。
たしかに観終わって欝になりそうなのはよくないけれど、ああやって自分を爆発させて、一人で死んでいくのも悪くないなあって思わせる映画だわ。それに泣ける。
                               ※写真はウエブより使わせていただいております


totoebi01 at 00:46|Permalink映画や読書の感想